2014年8月5日火曜日

2-4 真珠

真珠とは生きた貝の体内で形成される代謝生産物であって、かつその外観しえる部分の構成物質が貝殻と等質であるものをいいます。

①天然真珠 養殖真珠 人工真珠

1.天然真珠

生きた貝の体内で人為的な介在を含まず形成された真珠です。
 ヨーロッパ、アメリカなどでは市場のほとんどが天然真珠です。養殖は養殖であることを明記する必要があります。
 古くは紀元前の時代から、日本では奈良時代から愛されています。
日本に現存している奈良時代の天然真珠は大半がアコヤ真珠、一部にアワビ真珠が含まれています。
 天然真珠の産地として最も有名なのが、バーレーンを中心とするペルシャ湾です。
良質のアコヤガイが大量に生息する地域です。ここで採取された地域は「オリエント・パール」として広く世界、特にヨーロッパで珍重されました。
 アメリカ大陸では、1492年にコロンブスによるアメリカ大陸発見以来、カリフォルニア半島先端のラパスを中心として大規模な天然真珠の採取が行われ、ここで採取された真珠はスペインを始め、ヨーロッパの王族へと送られました。
また、1857年ニュージャージーで発見された淡水真珠がティファニーに高値で買い取られました。
 現在市場に出ている天然真珠で最も顕著なものはコンク真珠です。
コンク真珠を産出するのはピンク貝という大型の巻貝です。コンク真珠は通常の真珠とは構造が異なります。
通常の真珠の構造は、アラゴナイトとよばれる炭酸カルシウムの結晶とコンキオリンと呼ばれる有機基質の層状構造をなしています。
コンク真珠の構造は、交差板構造をしており、厳密にいえば真珠ではなく、コンクパールとして通常の真珠と区別しなければならないです。 

2.養殖真珠

生きた貝の体内で人為的な介在により形成された真珠です。
その外観しうる表面全体が真珠層で覆われています。
 日本、オーストラリア、タヒチ、中国では市場のほとんどが養殖真珠です。
 中国では13世紀ごろには淡水産のカラス貝の中で鉛で作られた小片の仏像を貝殻と外套膜の間に挿入し、「仏像真珠」と呼ばれる半形真珠を作っていました。
 一方ヨーロッパでは、18世紀中ごろ、スウェーデンの科学者リンネもこの研究に取り組み、人工的に真珠を作り出す技法を考案したと言われています。
 養殖真珠の技法が完成されたのは日本です。明治26年(1893)の御木本幸吉の半円真珠発明に始まり、明治38年(1905)ごろには真円真珠を作る技術は完成していました。
現在でも西川のピース式(ピースと呼ばれる外套膜外面状皮細胞の小片を、貝殻を丸くした核に密着させて貝の体内に挿入する方法)が有核真円真珠を作る方法として受け継がれています。

3.人工真珠

生きた真珠貝の中で形成されることなく人工的に製造されたものです。
模造真珠の歴史は古く、特にヨーロッパでは13世紀から17世紀にかけ本物の真珠使用に禁令が出され、それを補うものとして作られました。
薄いガラス球を吹いて内側に魚鱗箔を塗って、内部の隙間を白蝋などで充填したり、あるいは真珠貝、ガラスなどで玉を作り、その表面に淡水産あるいは海水産の魚の鱗から抽出したグアニンを塗布したりして製造されていました。
最近ではガラス球または真珠養殖核の表面に異なった種類のプラスチックの被膜を何層にも重ね真珠光沢を出しています。

 

②養殖真珠の種類

養殖真珠は真珠形成の観点から3つに大別されます。

1.有核真珠

真珠養殖母貝の体内(主として生殖巣)に淡水産2枚貝から作られた「核」と「ピース」を入れ、核の表面に真珠層を形成させたものです。
核は一般的に球形であるが、ドロップやコインのような変形核も一部使用されます。
ほとんどのアコヤ養殖真珠、シロチョウ養殖真珠、クロチョウ養殖真珠はこれに該当します。

2.無核真珠

イケチョウガイ、ヒレイケチョウガイ(三角貝)などを用いた淡水養殖に多いです。
核を使用せずピースのみを予め外套膜に開けられたポケット状の穴に挿入し形成されます。

3.半形真珠

母貝貝殻内面真珠層にロウ石やプラスチックで作られた半形状の核を接着剤で接着し、この表面に真珠質を分泌させて作ります。
マベ養殖半形真珠が有名です。
半円真珠は真円真珠を半分にカットしたものとして半形真珠とは区別されます。半分真珠の形なので半形真珠と呼ばれます。

 

③真珠の加工処理

真珠は採取されると、研磨、孔明、削り、漂白、染色、熱処理などの加工が施されます。
加熱は余分な色素の除去や光沢の改良のため行われます。
漂白は酸化剤などによる有機物(シミ)、色素の除去のため行われます。
調色は赤色系色素添加によるきわめて軽度の色調改善を目的に行われます。
染色は天然または合成染料による真珠本来の色の改良または改変のために行われます。
着色は染料以外の化学薬品による色の改良または改変のために行われます。
放射線照射は色の改良または改変のために行われます。

④真珠の品質決定要因

真珠の品質特性は形、巻き、キズ、テリ、色です。
1.形
真珠層の厚さを考慮する必要があります。真球度の高さだけでなく、シロチョウ養殖真珠では左右対称の形の良いドロップ真珠はその希少性からトップクオリティの範疇にいれるべきとの主張があります。また、淡水養殖真珠の場合は丸に近ければ近いほど値段は高く、極めて明確な評価がなされています。

2.巻き
巻きとは真珠層の厚さです。
真珠層がどのような構造をしているかで、耐久性、光沢、色にまで影響を及ぼします。
母貝別の巻きの程度は
淡水養殖真珠<シロチョウ養殖真珠・クロチョウ養殖真珠<アコヤ養殖真珠となります。
巻き優劣の比較は母貝別に行います。異種の比較は困難です。
アコヤ養殖真珠の場合は下限0.3mmくらいが商品として流通する目安となっています。
確認方法としては、熟練者の目視確認や軟X線、超音波などの装置を利用することもあります。

3.キズ
キズは真珠表面または内部の円滑さを阻害し、真珠の美しさを損なう原因となります。
キズの数、大きさ、位置、種類などが判断基準にとって重要になります。
一般的にキズナシ 小キズ 中キズ 大キズに分けられるのですが、評価者によって多少ずれがあります。
・引っ掻きキズ
かなり目立つものが多いです。
・凹みキズ
程度により「エクボ」「ピン・ホール」など呼ばれます。
・でっぱりキズ
さまざまな種類があります。著しい場合は真珠の形そのものに影響を与えます。
・フラット・キズ
真珠の表面に発生した細かい凹状のキズです。
・シワ
著しい場合はミミズバレのように見えます。

4.テリ(光沢)
真珠層が厚く、層を構成するアラゴナイト結晶板が大きくてきれいな結晶で、規則正しく積み重なり、内部にシミなどの有機物を包含しない場合、真珠独特のテリが生じます。
テリは評価する環境、特に光源に大きく左右されるので注意が必要です。

5.色
色は真珠品質決定要因の中で最も難しいです。
それは光の反射、屈折、干渉、真珠の持つ色素、有機物、加工処理などの多様な要因があるためです。
統一した基準はなく、業者は独自の基準で評価を行います。
使う人の好みや流行に大きく左右されるため、需要の少ないものは低ランクとされます。

⑤真珠の品質を変化させる要因

真珠は様々な要因で真珠の品質特性を変化させます。
1.酸
真珠の主成分である炭酸カルシウムは酸で溶解します。
直接酸と接触しなくとも、真珠中に含まれる水分が空気中の二酸化炭素や窒素酸化物を吸収して酸になる場合もありますし、私たちの汗にも酸性のmののがあります。

2.光
光のうち、短い紫外線および熱源に近い長波長の赤外線は特性を変化させます。
紫外線により、真珠中の色素、染料などは変色、退色します。またコンキオリン蛋白も黄変し、その結果真珠も黄変します。
赤外線により、黒真珠や淡水真珠の色素は脱色されるため、直射日光、強い照明などは避けることが好ましいです。

3.熱
徐々に加熱した場合は100℃までそれほど大きな変化は起こらないが、急激な温度変化は真珠層の部分的膨張、水分蒸発などを起こし、層状構造に断層や亀裂を生じさせ、真珠層の「われ」の原因になります。
またコンキオリンも熱の影響を受け、黄変などの変色を起こします。
クロチョウ養殖真珠の黒色色素、淡水養殖真珠のオレンジや紫色の色素も光同様に熱で変色・退色します。特に淡水真珠は120℃くらいの加熱でいちじるしく脱色されるので、加工処理方法のい一つとして利用されます。

4.酸素
真珠は空気中の酸素によって徐々に酸化されます。
真珠中の「シミ」と呼ばれる有機物は酸化され退色しやすいです。ブルー系のアコヤ真珠の退色はこのシミの退色が主原因です。

5.水分
炭酸カルシウムの結晶が浸食され、光沢も失われます。これは主に水が空気中の炭酸ガスを吸収して炭酸になり、真珠のカルシウムを溶解するためです。
また水道水には塩素系の殺菌剤が含まれていたり、雨の場合には酸性雨など水分単独でなく他の物質と化合して複合的に真珠を変化させることが多いです。

⑥貝殻製品、真珠様物質の鑑別

1.貝殻製品の鑑別

貝殻を球状あるいは半球状にして、真珠に似せているものが存在します。
軟X線透視で貝殻特有の仕切りが移るので簡単に鑑別できます。
また貝殻から球体を切り出すと、球体の表面に真珠層部の表面と断面が見られます。
これら固有の模様は光学顕微鏡で全表面を丁寧に観察しても確認できます。

2.真珠様物質の鑑別

カキ、アサリ、シジミ、シャコガイなどから稀に見つかる真珠が存在します。
その大半は真珠光沢を示しません。
ルーペなどで全表面を拡大観察し、その構造特有の模様を観察します。様々な角度から照明を当てて模様を観察することが大切です。
軟X線透視で内部状況を観察したり、表層部の元素分析を行ったり、天然のものか否かを鑑別することもできます。
その他分光反射スペクトル測定、蛍光分光反射スペクトル測定などを行って、産出貝の同定などをする場合もあります。

⑦ブルー系真珠の鑑別

ブルー系真珠とは真珠内部の異質層の色が真珠層越しに透けて見える真珠の総称です。
人気商品の一つのため、染料を真珠内部に浸透させたり、放射線など電磁波を照射し、内部の核を褐色に変色させるなどの加工処理が施されることも多いです。
この種の加工処理されたブルー系真珠は、
内部の異質層の確認(軟X線による確認や強い光のビームを当て目視確認)
浸透染料の確認(光透過法や分光反射スペクトル測定)
核の黒褐色化の確認(光透過法)
が処理識別の着眼点です。

⑧貝殻鑑別とは

母貝鑑別とは真珠そのものから産出貝を判定することです。
それぞれの産出貝の貝殻真珠層の物理的・化学的特性を把握し、その特性が該当真珠に表れているかを確認することが基本です。

⑨表面状態から品質検査

1.キズ
養殖過程でできるもの、加工過程でできるもの、着用時に硬いものと接触してできるものがあります。
養殖過程でできるキズは突起と窪みタイプに分けられます。とりわけ異質層の稜柱層にみられることが多いです。
接触キズは全て窪みタイプです。顕微鏡拡大で容易に判別できます。

2.露出綾柱層
低級品の真珠に稀に綾柱層が露出している場合があります。これは養殖過程できるのですが、乾燥でひび、われが比較的早い時期に起こり、結果的にその真珠全体の崩壊をうながす原因になります。

3.ハンマー・マーク
よく見ると真珠表面をハンマーで叩いたかのような面が波立っています。養殖過程でできたものです。

4.あれ(ぼけ)珠
真珠層表面の光沢が鈍く、粉をふいたように見えるものをこう呼びます。
これは表面に微小な凹凸が多数存在することによる光の散乱に起因します。
これは真珠層を構成する炭酸カルシウムの部分的溶解によります。
強い光の下で鮮明に確認できます。 

⑩内面状態から品質検査

1.巻き
真珠層の厚さが0.25mm以下のウス巻きのチェックを行います。品質面上で経時変化が非常に早く、品質保証の点で問題を生じかねないためです。
軟X線透視測定や直射日光・光透過法なっで核の縞模様確認する方法も可能です。真珠層の厚さが0.3mm未満であると核が透けて見えるのです。

2.加工キズ
加工時、とりわけ漂白工程で真珠層が劣化した場合、加工キズとしてあらわれます。
劣化は真珠層内部に極小空隙の発生を伴うため、そこで光の散乱で白く見えるのが特徴です。
肉眼でも十分に確認できますし、光透過法の方がより鮮明に見えます。

3.層われ
乾燥や乾燥・湿潤の繰り返しで起こる真珠層のわれを指します。
巻きの厚い真珠に起こりがちです。肉眼では見えにくいため、光透過法での検査が必要です。

4.核われ
真珠内部の核が割れ、それが真珠層越しに透けて見える状態を核われ珠とよびます。
直射日光や光透過法で鮮明に見えます。

⑪真珠のクレーム処理

1.光沢鈍化
汗、皮膚分泌、化粧品等の水気で真珠層の表面が溶けたために起こる現象です。
着用後は拭いてからしまうのが真珠手入れの鉄則です。
ほとんどの場合は炭酸カルシウムの結晶を数層はがすと修復されます。研磨剤を混入した市販のクロスで表面をこするなどして修復することができます。

2.変色
変色のほとんどは黄ばみで、全体に黄褐色化することです。
これは熱や光などで真珠層の蛋白質が変性し黄変化するために起こる現象です。
黄ばみの修復は困難を極めます。

3.褪色
色が褪めて(あせて)しまうことです。
一つはアコヤ養殖真珠の加工で使われる染料の褪色です。光によって褪色します。
加工で使用する染料を光に強いものを使用することがクレーム対策となります。
二つ目はブルー系真珠の褪色で、発色の原因でもある異質層の乾燥で収縮し、空気の層ができることにより、光が散乱し異質層の色が反射して外に出てくるのを防いでしまうためです。
事前に乾燥させ、異質層の水分を除去しておくことがクレーム対策につながります。
三つ目は淡水養殖真珠の褪色で、蛋白質に含有している色素が熱によって薄くなる現象です。
事前に加熱し、十分に褪色させておくことがクレーム予防につながります。

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